子どもの本だより
2007/10/31 no.64
<発行部数 813>
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デンマークで出版されてから半世紀、日本の子どもたちに愛され
て四十年余り。この細い体(本の形が縦長なので)で、しっかりと
その人気を受け止め、長きに渡って活躍してきた親しみやすい絵本
をご紹介いたします。
(吉田真澄)
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『つきのぼうや』
イブ・スパング・オルセン さく・え
やまのうち きよこ 訳
福音館書店
定価 1050円(税込)
歩くより車で、各駅停車より急行で―慌しい毎日の中では、敢え
てゆっくりと目的地を目指すことなどありません。そしてまた、ス
キーや遊園地のジェットコースターのように、時間をかけて昇り、
あっという間に降りてくる、というのは遊興の鉄則といえます。
この絵本でも、池を目指す「つきのぼうや」が、空から急降下し
て着水したなら、何の物語も生まれなかったわけですが、その鉄則
を飄々と破ってみせたおもしろさが物語の土台を支えています。
「ちょいと ひとっぱしり
したへ おりていって、
あの つきを つれてきてくれないか。」
池の中にもう一人の自分の姿を見つけたお月さまは、こう言って
「つきのぼうや」を下界へ送り出しました。「ぼうや」の行く手に
はまず雲が現れます。その後飛行機のすぐそばを通り抜けた「ぼう
や」は、渡り鳥の群れの中に飛び込み、時には煙突の煙で顔をすす
だらけにしながら下降を続けるのでした――。
本の形は、規格外ともいうべき、かなり縦に細長い長方形。それ
故、誰しもの記憶の中に残りますが、どんなお話だったかというと、
はてさて……?という方も多いはずです。それもそのはず、「ぼう
や」が“ゆっくりと”落ちていく、そのことを除けば、何の変わっ
た事件が起きるでもない簡易なストーリーなのですから。それでも、
その変わった本の形状を生かし、成り行き――ぼうやが落ちていく
――を、時間の経過と共に上から下へと描き出した構図は一興とい
えます。
月夜であるはずなのに昼間のように明るい画面は、お月さまが
「ぼうや」の行く手を案じて、照らしているせいなのでしょうか?
作者オルセンの他の作品と比べても、くっきりとした絵の鮮やかさ
は抜きんでています。お月さまには、よく見ると少ないながら髪の
毛らしきものが生え、さらに目を凝らすと無精ひげのようなものま
で観察できてユニークです。落ちていく「ぼうや」を驚きの表情で
見送るのは人間ばかりではなく、動物も鳥も、虫も魚も、丸い目を
見開いて「ぼうや」を見つめます。
しかし、私が一番心惹かれるのは、表、裏表紙の見返しに描かれ
た絵です。そこには、昼間のように明るい本編の画面とは異なる、
静寂の世界が広がっています。水上に浮かぶ帆掛け舟さえぴたりと
静止し、まるで時が止まってしまったかのようです。自転車を牽く
少女、腰に手を当てて直立不動の幼い男の子、そして縞模様の一匹
の猫、描かれた全ての人々は夜空を仰ぎ見ています。煌々と照る月
の明かりは、人びとの横顔を金色に染めて、地上にくっきりとした
影を映し出しています。屈託の無い本編に対して、こちらは月の神
秘的な美しさをしんしんと伝えているようです。
空の天辺から雲を突きぬけ、人間社会を通り過ぎ、さらには池の
底まで―風を受けて浮遊しながら落ちていく「つきのぼうや」。そ
の優雅で発見に満ちた旅を、縦に長い画面で“魅”せた楽しい絵本
です。
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(編集後記)
このほそながーい絵本は、わが家の本棚のどこの棚にもおさまる
ころがなく、大きな画集の横にいつも置いています。今号でこの絵
本を紹介することになく、とりだして子どもに読んでみました。
ひゅるーんとのんびりゆっくり落下していく様に、時折、くすく
すしながら聞いていた娘。上のお兄ちゃんたちもこの絵本を読みな
がら同じようにくすくす笑っていたことを思い出しました。
そして、吉田さんの紹介を読む前に私もまた、見返しの静けさに
心惹かれたのです。月のきれいな夜はこうやって見あげていたなぁ。
そう思ってから紹介された文を読んだので、仲間をみつけたような
うれしさがありました。
(さかな)
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