子どもの本だより
2008/05/30 no.68
<発行部数 813>
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太い幹とたくさんの葉を茂らせた枝。「大きい」ということは、
それだけ長く、その場所で世界を見続けてきたということです。
普段、木々からの「おくりもの」に浴するだけの私たちが、その
恩恵の大きさについて深く考えてみることはあまりありません。
この物語が、目に見え当たり前の風景をリフレッシュしてくれる
ことを期待します。
発行がままならず申し訳ございません。寛容にお付き合い下さ
るさかなさん、そして読者の皆様に感謝しております。
(吉田真澄)
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『大きな木のおくりもの』
アルビン・トレッセルト 作
アンリ・ソレンセン 絵
中井貴恵 訳
あすなろ書房
定価 1575円(税込)
同じ作者(アルビン・トレッセルト)による『しろいゆき あか
るいゆき』(ロジャー・デュボアザン絵/えくにかおり訳/BL出
版)は、冬の訪れと共にいつも開きたくなる絵本です。空気や湿度
まで感じさせる散文は、詩情とはこうした普段の生活の中にこそあ
るのだと改めて教えてくれました。
しかし、この『大きな木のおくりもの』を初めて読んだ時には、
そうした趣を感じることはできず、また、自然を脚色美化しただけ
のように見えた絵にも、正直心惹かれなかったのです。
そんな私が、この絵本を再び開いてみる気持ちになったのは、と
ある公園で朽ち果てた老木を見たからでした。姿だけは堂々として
いても幹は空洞となり、ささくれだった木肌は、まるで無数に刻ま
れた皺のようにも見えます。しかし、その割れた幹の間に、育ち始
めた新芽を確認し、日々循環する生命の力について思いを馳せたの
でした。
物語が始まって最初の見開きには、青々とした美しい緑の葉を枝
いっぱいに茂らせた見事な大木が、画面を覆いつくすように描かれ
ます。百年、いやもっと長期に亘って、森に大きな木陰をつくって
きたナラの木です。ページを一枚捲ると、そこは晩秋の風景。黄色
の葉の間に忙しく木の実を運ぶ愛らしいリスの姿が見えます。更に
次のページへ進めばそこは冬―ふしくれだった大きな木の根っこは、
小さな動物たちをその捕食者から守る大切な役目を果たしています。
しかし、再び春がやってきた次の場面で、読者は、意外にも、この
大きな木が「芯からむしばまれて」いることを知らされるのです。
健康な樹皮の下で、幹は、すこしずつくさっていきました。
木は、年々いためつけられ、だんだん弱くなっていきました。
春がおとずれるたびに、芽ぶく葉の数はへり、
大きくひろがった枝は死んで、灰色になりました。
―中略―
冬の嵐がやってくると、
大きな枝がつぎつぎと折れて、地面に落ちました。
そして、短くなったうでを空につきあげた幹だけが残りました。
画面は再び冬を迎えています。そこに描かれるのは、寂しい雪原の
風景の中で、枝をもぎとられて裸になっても尚、渾身の力をこめて空
に向かおうとする――今は小さくなってしまった――「大きな木」。
時の移り変わりとともに、一つの命が朽ちてゆく。それはあたりまえ
のことなのだと画面の手前で枝にちょこんととまったひよどりが教え
てくれているようです。まるで霧のようにたちこめる静寂は、命ある
ものたちの息遣いさえ際立たせるよう。そして、しんと冷えた空気は、
全てを内包するのみで、そこに何の力を加えることもありません。こ
れは、おそらく作者の視点と重なるでしょうか。
やがて、秋に吹き荒れたハリケーンによって残された幹も根元から
倒れますが、その倒木には小さな動物たちが巣をつくり、樹皮の下で
は、キノコが養分を吸い上げます。長い年月をかけて土にかえってい
く、かつての「大きな木」は、滋養となって多くの命を支えるのです。
こうして、何年かまえに枝から落ちたドングリが育つころ、
大きなナラの木は、すっかり土にかえりました。
大いなる木が身を横たえていたところには、
茶色いまぼろしのような、豊かな土だけが残りました。
感傷にも科学的知識にも偏らず、作者の視線は、ただ淡々と自然の
営みを見守ります。
原書では、もっと選ばれた言葉によって滑らかに物語られているよ
うで、この作者が他の作品で魅せた特長――温度や質感までも伝える
穏やかな筆致――が、更に顕著であったかもしれません。翻訳では、
ところどころ言葉が置き換えられたり省かれたりした箇所もあると聞
き、大変残念に思います。
しかし、その柔和な表現と絵の中に、生命の本質が語られているこ
とにかわりは無く、今回、遅まきながらそこにたどり着くことができ
た次第です。
時の移り変わりとともに変遷していく命――その一つ一つが果たす
役割はとてつもなく大きいのだと改めて教えられました。
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(編集後記)
若葉の美しい季節です。庭の小さな木も葉をいっぱい茂らせてい
ます。いつも今年はもうダメかもと思っていた、ざくろの木は、予
想をうれしく反して新しい葉を茂らせています。
しかし、こうして美しい自然の恩恵にあずかりながら、未曾有の
天災があちこちに起き、自然の過酷さを目の当たりにしている昨今
でもあります。すこしでも早い復興と、被災された方々の回復を心
より願っています。
(さかな)
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